「国際物理オリンピックに参加して」 渡邉 明大
2015年インド大会代表
2016年スイス大会代表
2017年インドネシア大会代表
渡邉 明大
名だたる大先生方が記されている、このIPhO2022リレー・エッセイの一端を担うにはあまりに若輩者ですが,物理オリンピックに深く影響された一学生として筆を執らせていただきます。
私が物理学という学問を本格的に志したのは中学3年の秋頃だったと記憶しています。小学生の頃は算数が好きで、それは自然に数学への興味に移っていきました。数学の問題を解くのは楽しかったですが、果たしてこれがなんの役に立つのだろうかという漠然とした疑問を思春期ながら抱いていました。そんな中、縁あって高校物理を先取りして学ぶ機会を頂いたのですが、無味乾燥な記号に思えた三角関数や微分積分が主役となって現実世界の物理現象を解明していく物理のスタンスは私に鮮烈な驚きを与えてくれました。特に、数学と物理の交わりのような、数理物理の分野に惹かれました。
はじめは、折角勉強しているのだから、という気持ちで挑戦した物理チャレンジでしたが、予選レポートの実験、夏の本選、代表選考の合宿を通してさらなる物理の面白さを教えてくれました。実験が上手くいかない原因を考え、測定を工夫し、誤差を解析してより良い実験が出来た時の爽快感。全国の優秀な高校生と出会い、衝撃を受け、物理について議論する楽しさを知ったあの夏の夜、高校物理を超えてさらに深遠で壮大な物理学の世界を垣間見せてくれた代表候補研修、どれも素晴らしい体験でした。
結局、日本代表として2015年から2017年まで国際物理オリンピックに参加させていただきました。毎回、世界の高校生たちと物理に限らず色々な話をして、中では一緒にサッカーをして遊んだ年もありました。様々な思い出がありますが、一番印象的だったものをあげるならば、初めて参加したインド大会の時のことでしょうか。5人の日本代表選手の中で、私だけが別の国の選手との相部屋でした。確かマレーシアからの選手だったかと記憶していますが、今年の問題の予想について拙い英語で聞いてみるとそこから会話が弾み、「国が違ってもやっぱり物理は面白いし、その面白さはわかり合えるのだなあ」と実感してなんだか嬉しくなりました。
物理オリンピックに物理への興味の火を付けられたといっても過言ではない私ですが、現在は大学2年生で、理論物理の研究者を目指して勉強中です。高校生時代に物理チャレンジで出会った友人たちとは普段よく会って議論する仲ですが、将来研究者として国際物理オリンピックで出会った世界のライバルたちと再会する日が来ることを期待しています。
IPhO2022に参加する全ての学生が、かけがえのない経験を得られる素晴らしい大会になることを願って、筆を置かせていただきます。
【略歴】
出身地 | 大阪府四條畷市 |
出身高校 | 東大寺学園高等学校 2018年卒業 |
大学 | 東京大学教養学部前期課程在学 |
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