「国際物理オリンピックに参加して」 松元 叡一 リレー・エッセイ2-14

「国際物理オリンピックに参加して」

2008年ベトナム大会
松元 叡一

私が物理学に興味を持ったきっかけは、まさしく物理チャレンジ・オリンピックへの応募でした。以前に情報オリンピックなどに参加していたこともあって、他の科学オリンピックも受けてみるか、と軽い気持ちで応募した覚えがあります。

最初に衝撃を受けたのは物理オリンピックの問題の面白さでした。代表候補になった人は大会の過去問などを解いて勉強していくことになるのですが、これがとてもよく出来ていて奥深いのです。有名な宇宙物理学や素粒子物理学の研究を、丁寧な誘導に従って、高校生の知識でもわかるように解き明かしていくものであったり、一方では身近な現象を物理の視点で分析することで、物理学の理論と現実世界との対応を実感できるものであったり。また、実験課題では問題ごとに特製の実験機器が用意されていて、これに触れることも一つの楽しみでした。例えば、マイクロ波の干渉を利用して目に見えないブラックボックスの中身を測定する実験など、とてもワクワクしますよね。このようなきっかけで物理って面白いな、と思い、大学で本格的に物理学を学ぶことにしました。

大学の先の進路を考えるとき、物理と並行してプログラミングを学んでいた私は、両方の技術が活かせるような領域を探していました。その一つがコンピュータシミュレーションで、物理の理論を元にコンピュータで計算を行うことで、リアルな流体の動きを再現できたり、複雑なパターンを作り出せたりすることに興味を惹かれました。中でも認知の仕組みや生物の活動などとも関わってくる複雑系を扱ってみたいと思いが強くなり、大学院では脳のような認識機能のシミュレーションを研究テーマにしようと決めました。奇しくもそのときディープラーニングと呼ばれる機械学習(平たく言うと人工知能)の技術が注目を集め始めた時期で、修士での研究もそれに寄ったものとなっていきました。

そして現在、Preferred Networksという会社でディープラーニングを活用した画像認識技術の研究開発を中心に仕事をしています。例えば、ロボットに搭載されたカメラの映像から、周囲の物体の位置や形状を認識して、散らかった物体を片付けるシステムの開発などです。一見物理とは全然違う領域に来てしまったかのようですが、このエッセイシリーズでIPhO2008同期の吉田君も書かれてるように物理と機械学習の関連は意外と深いものがあります。

このように、物理は私に様々な衝撃と、新たな分野への出会いを与えてくれました。そして物理を学ぶ中で身につけた、現象の背後に潜む数理的な構造を考えたり、あるいは実験データと泥臭く格闘する力は、分野を超えて役立つということを日々の仕事で実感しています。現象を観察しながら理論的に考案した画像処理の手法が、それまでのものより良い精度で動いてくれたときの楽しさは、高校時代に物理オリンピックの難問を解いていたときの楽しさと連続しているものがあるようにも感じます。

このエッセイが、物理学および物理オリンピックに興味を持つきっかけとなれたら幸いです。

【略歴】

出身地 東京都
出身高校 筑波大学附属駒場高等学校
大学 東京大学理学部物理学科
大学院 東京大学大学院総合文化研究科広域科学専攻(修士号取得)
現職 株式会社Preferred Networks
エンジニアリングマネージャ

(現職で開発した画像認識器の例
https://projects.preferred.jp/tidying-up-robot/ より)

(IPhO2008閉会式後の写真 (右から4人目が松元))

 

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