国際物理オリンピックに参加して
IPhO2010クロアチア大会
神谷(真野)絢子
私は現在小児科医師として働いており、来年度から基礎医学系の大学院に進学予定です。これまでリレーエッセイを執筆されたOB・OGの方々と比較すると異質な経歴で、一見物理学とは関係ないように見えます。しかし、実は物理チャレンジや物理オリンピックで得たものが最終的に今の自分を形作っているのだと実感しています。
私は元々「なぜ?」を追求したり、新しいことを知ったりすることが大好きでした。物理学も、少ない基本法則を元に、量子から天体の動きまで、様々な自然現象を説明できるところに魅力を感じていました。物理チャレンジに参加したきっかけも、塾の先生に「実験は好きか」と聞かれ、当時は物理実験もしたことがなく、正直好きかどうかはよく分からなかったのですが、何か新しい発見がありそう!と思って「好きです」と答え、紹介してもらったからでした。
物理チャレンジに参加してみると、第2チャレンジの合宿が思いのほか楽しかったのが心に残っています。夜遅くまで大学で物理学を専攻している先輩たちの話を聞いたり、物理オリンピックのOBの方々の経験談を聞いたり、単純に新しくできた仲間たちとゲームをしたり、当時受験勉強を始めていた私にとっては全てが非日常でした。試験に関しても、特に実験問題で、自分の手を動かして得たデータを用いて、物理法則を推定したり物理量を実際に導き出したりすることができる、そしてその方法は実験・解析をする自身の手に委ねられている、このような点にワクワク感が止まりませんでした。幸いなことに、初めての女子代表選手として物理オリンピックに参加させていただくことができ、この国際大会でも他国の選手たちとの交流やクロアチア観光など、かけがえのない思い出がたくさんできました。特に仲良くなった中国系アメリカ人の女の子とはいまだに交流があります。
その後は、元々は地元の名古屋大学を受験するつもりでしたが、やはり物理を通した仲間たちとの繋がりが忘れられず、東京大学に進学することにしました。その際、当初より医学にも関心があったため、医学部に進学し、一旦物理学からは離れることとなりました。医学部では、先天性疾患や小児がんに興味を持ち、小児科に進み、本年度で研修期間を修了する予定です。臨床医として一段落するタイミングで、かねてより興味のあった研究に従事したい気持ちが芽生え、研究室見学をしていたところ、なんとここで物理学との再開を果たしました。具体的には、生物の発生過程における細胞や細胞集団の動きを顕微鏡で観察し、その振る舞いやエラーが起こった際の変化を、力学系モデルを用いて解析する予定です。医学と物理学の融合とともに、当時物理チャレンジで味わった実験のワクワク感も再度味わうことができると考えると、これがまさに自分がやりたかったことであり、非常に楽しみにしています。そして、研究室選びをする際にお世話になったのはやはり物理チャレンジで出会った先輩方で、物理学を通した人との繋がりに助けられていることを心より実感しています。
いよいよ2023年に日本で国際物理オリンピックが開催されることとなっていますが、大会の成功を祈念するとともに、選手やスタッフの皆さんにとって素晴らしい体験となることを祈っております。
【略歴】
出身地 | 愛知県名古屋市 |
出身高校 | 私立南山高等学校女子部 |
大学 | 東京大学医学部医学科 |
現職 | 小児科医師 |